INTERVIEW

『動物たち』リリース記念 照井順政 特別インタビュー <PART2>



──ここからは、『動物たち』をより深く聴き込むためにさまざまな質問ができたらと思います。まず『動物たち』を制作するにあたって参考にされた本・楽曲はありますか?

照井:最近のK-POPがいちばん影響が大きいのかな。aespa、TWICE、ITZYとか。

──K-POPは照井さんの中でどのような存在なんです?

照井:サウンドとして今やりたい方向性のひとつではあって。アイコニックに仕上げるところなどは参考にしたいなと思っています。リスナーとしても楽しんで聴いています。

──K-POPは短い曲が多い印象ですが、3分間に収める曲にしたかったというのも、その影響ですか?

照井:それもあるかもしれません。昨今のストリーミング事情もありますし。でも、もとから短い曲が好きで。さっぱり終わらせられたらいいなと思いつつ、入れたいことが多くてごちゃごちゃしちゃうこともあるんですけど(笑)。でも今回もそのさっぱりをやりたかったっていう。

音楽以外では『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』などの、ダークな世界観をポップにエンタメに落とし込んでいる作品を参考にしました。
K-POP以外の音楽でいうと、少し昔の曲ですけどブリトニー・スピアーズの『Toxic(トキシック)』のコード感とか、マイケル・ジャクソンの『スリラー』とか。本はいろいろあるんですけど、現代美術作家の鴻池朋子さんの『どうぶつのことば──根源的暴力をこえて』は読んでいました。鴻池さんの制作のお話や、対談、詩のようなものが掲載されていて『動物たち』という曲に直接影響を与えたわけではないんですが、アーティストとして共鳴するところがありました。




──照井さんご自身はあちこちから影響を受けられているイメージなのですが、もともとはどんな音楽が好きだったんです?

照井:あげたらキリがないくらい、いろいろな音楽に影響を受けていますね。大きく影響を受けたもので言うと、筋肉少女帯、特撮ですね。オーケン(大槻ケンヂ)に影響を受けています。中学生くらいから聴いていました。それこそ短編小説のようなコンセプトものが好きな理由はその影響が大きいような気がします。高校のときはリンプ・ビズキット、インキュバス、KORNとか、モダンヘヴィネスと言われていたバンドが好きでした。コピーバンドもしていましたね。

あとはレディオヘッド。好きな音楽家は誰かと言われたらトム・ヨークは真っ先に名前が挙がります。スティーブ・ライヒなどのミニマル音楽も好きですね。その流れで、カールハインツ・シュトックハウゼンなどの現代音楽にも影響を受けましたし。テレフォン・テル・アヴィヴなどのIDM(インテリジェント・ダンス・ミュージック)やAOKI TAKAMASAさんなどのエレクトロニカ系も大きいです。あとは、日本のインディーバンド。マヒルノ、nhhmbase(ネハンベース)とか。当時ネスト系などとも呼ばれていたバンドですね。

──へええ! 渋谷のNestにはよく行かれていたんです?(現在の名称はSpotify O-nest)

照井:というか、働いていました(笑)。そのあたりの前衛的なバンドが好きだったんですよ。それでドリンクのバイトをしていたことがあります。

他にはスフィアン・スティーヴンスなどのインディー系もよく聴きましたし、ブレインフィーダー周辺、割と最近ではアルカとかOPNなどに代表される近年の電子音楽、ハイパーポップ等々様々なアーティストに影響を受けています。

──個人的に照井さんの音楽から、アイスランドミュージックの影響を感じていたのですがどうですか?

照井:ああ。ビョークやシガー・ロス、MUM、アウスゲイル、ヨハン・ヨハンソンあたりにも影響を受けていると思います。にじみ出ているところがあるのかもしれないですね。

──最初に影響を受けたバンドが筋肉少女帯だったとは。

照井:今でも大好きですね。

──民族音楽もお好きということでしたが、民族音楽×バンドというところだとエイジアン・ダブ・ファウンデーションを思い出すんですが、そのあたりはいかがです?

照井:かっこいいですよね。好きで聴いていました。sora tob sakanaには、一曲、エイジアン・ダブ・ファウンデーションを明確に意識したものがあります。

──照井さんは、アニメ『呪術廻戦』の劇伴やアイドルグループsora tob sakanaの⾳楽プロデュースだけに留まらず、ハイスイノナサやsiraphといったバンド活動もされています。照井さんならではのプロデュース方法について、ご自身ではどのように分析されていますか?

照井:文系っぽいやりかたというか。ユニットにとって必然性のあるコンセプトを時間をかけて考えることを大切にしていて。例えば今回だったら、Cingという歌い手がいて、スタッフさんが考えられた世界観があって。その中で作品としてどういいものにできるのか、シーンの中でどういった立ち位置を作れるのか、今の社会情勢の中でどんなものが求められているかなどを考えた上で、コンセプトを立ち上げます。Cingさんの場合は活動の仕方には自分は関わっていないですが、sora tob sakanaのように自分がある程度活動の方針を決められるのであれば、コンセプトから必然的に導き出される活動の仕方を適用して……という感じですね。チームの場合は指標がないとバラバラに走ってしまうので、コンセプトを立ち上げることは大切かなと思っています。

ただ、最終的には作品が良ければコンセプトはどうでもいいと思っているんです。でも個人的に「なんとなく作品を作る」ということに対してはモチベーションが上がらないことがあって。自分は音楽がめちゃくちゃ好きというより、文化全体が好きで。だから自分にとって(音楽を作る上での)ガソリンのような感じでコンセプトを作る感じですね。


【インタビュー・文/逆井マリ】